今から160年以上前。混沌とした幕末期から現在まで、同じ場所で営業し続ける日本橋の菓子舗「榮太樓總本鋪」。
看板商品の飴は、一見「これって本当に飴?」と疑うほどおしゃれでレトロかわいい!
ちょっとしたプレゼントや手土産にもっていくと、センスがいいとおもわれること間違いなしの「榮太樓飴」「スイートリップ」を、日本橋の歴史を見守り続けた「榮太樓」の物語とあわせてご紹介します。
榮太樓ものがたり

もともと埼玉県飯能で菓子商をしていた細田徳兵衛が、文政元年(1818)に2人の孫(安太郎、安五郎)をつれて江戸でせんべい焼の商売を開始したのが「榮太樓」のはじまりです。
九段坂にかまえた店はのちに安太郎が継ぎ、安五郎は独立して別の菓子店につとめます。
安五郎は腕がよく、やがて「伊立屋」の看板を掲げて一本立ち。結婚をへて、天保2年(1832)に長男・栄太郎がうまれます。
栄太郎は子供の頃からよく父の商いの手伝いをしていて、「孝行息子」として町内では評判だったといいます。
栄太郎の金鍔
19歳のとき伯父と父親を流行り病で亡くし、一族の長となった栄太郎は、家族を養っていかなければならないと一層商売に精を出します。
栄太郎が屋台で売っていた「金鍔」。ある時お客さんから、

皮が厚い金鍔をたべるんだったら今川焼を食べれば良い。金鍔は餡こを愉しむもんなんだから栄太郎、薄くしてくれよ~
といわれ、どんどん薄く仕上げていったといいます。
こうして「とにかく皮が薄くて、中の餡こが多い栄太郎の金鍔」は、魚河岸で働く人びとや軽子たちの評判をよび、その噂は江戸中に広まっていったのです。
■魚河岸…魚市場のある河岸(大正時代まで日本橋付近には「日本橋魚河岸」があった)
■軽子…魚市場や船着き場などで荷物運搬を業とする人

「金鍔」は、刀の鍔のように丸く平らな形をしていたことが由来。当時は丸形が一般的でしたが、現在は簡単に作れる四角が主流になっています。
現在、榮太樓總本鋪で購入できる「名代金鍔」は、江戸時代から形や製法を変えず、200年前の江戸の人びとが食べた、当時の金鍔の味を引き継いでいます。

幕開け

安政4年(1857)には、現在地に店舗をかまえ、自らの幼名・栄太郎にちなんで屋号を「榮太樓」とあらためます。
当初は「井筒屋」の屋号で商売をはじめますが、お客さんが「栄太郎の店」と呼ぶので、そのまま「榮太樓」を採用したとか。
時は幕末・明治維新。大きく揺れ動く時代の中でも「榮太樓」はさまざまな商品を打ち出しています。
看板商品となる「梅ぼ志飴」、甘納豆の元祖である「甘名納糖」、そして「玉だれ」「黒飴」などなど。


すべて現在でも購入できるロングヒット商品♪
明治10年(1877)、初代内務卿・大久保利通の提案により上野で開催された「第一回内国勧業博覧会」。
このとき「榮太樓の甘名納糖」が優等賞を受賞しています。
ちなみに第二回内国勧業博覧会で有功賞を受賞したのは「サッポロビール」。その物語はこちら▼をどうぞ。
「榮太樓」の商いもの
榮太樓飴とレトロ缶

「梅ぼ志飴」。名前や色から梅味かとおもいきや、じつは梅は一切入っていないんです。
有平糖という400年前にポルトガルから日本に伝わった南蛮菓子で、砂糖と水飴を煮てつくったもの。
「まだ固まりきらない紅着色の飴をはさみで切り、口内を傷つけないよに指でつまんで三角にする」際の色かたちが梅干しに似ていることから、江戸っ子が名付けたとか。甘いのにあえて「梅ぼ志」と称す、江戸っ子の洒落と機智ですね。
直火で炊いた飴は、まろやかでコクがあり優しい。そしてどこか懐かしい甘さ。

黒糖(黒飴) 抹茶 紅茶 バニラミルク
あまおう レモン マンゴー りんご etc…

人気ランキング1位は梅ぼ志飴、2位は黒飴!
そしてなんといっても容器の缶!


レトロかわいい!色のバリエーションだけでなく、歌川広重「東海道中五拾三次」の浮世絵、東京名所缶などもあり、いくつか並べてお部屋においてもお洒落。
しかも1個330円(2022年7月/店舗価格)とめちゃめちゃお安い!

みつあめ「スイートリップ」

デパコスを彷彿とさせる陳列ですが、実はこれ、みつ状のあめをグロスリップに見立てた「スイートリップ」。
スタンダードな有平糖からりんご、ゆず、オレンジなどの定番商品のほかにも季節限定フレーバーがあります。

うん。可愛い!
そのまま食べるのももちろん美味しいですが、味ごとにおすすめの食べ方があるようで、色々試したくなりますね♪
有平糖 ・・・ 紅茶の砂糖代わり
りんご ・・・ 紅茶の砂糖代わり・ヨーグルト
ゆず ・・・ お湯割り・炭酸割りでドリンクとして
コンコードグレープ・・・ヨーグルト・バニラアイス
不知火 ・・・ トースト

ぶどう味が強く、かなり濃厚なので砂糖不使用のプレーンヨーグルトにめちゃくちゃ合う!
江戸の生菓子

金鍔のほかにもショーケースに和菓子が並びます。

団子類はすべてコシヒカリ!
本わさびを原料とした珍しい菓子「玉だれ」や「甘名納糖」は、本店でしか買えない限定商品です。
金鍔とおなじく江戸の庶民に親しまれた大福。

榮太樓の大福は、「せっかちな江戸っ子に食べやすく」と、歯切れの良い餅が特徴。「もちぷにっ」というより、「むっちり」とした弾力があります。
豆大福は一般的に赤えんどう豆を使用しますが、榮太樓は黒豆。ごろごろはいっていて食べごたえ抜群♪
アクセスとおすすめ周辺スポット
最寄りは「日本橋」駅、B9b出口から徒歩2分。
日本橋と徳川慶喜

榮太樓總本鋪のそばには、五街道の起点となった日本橋のシンボルでもある名橋「日本橋」があります。
日本橋がはじめて誕生したのは今から400年以上も前で、当時は木造の太鼓橋でした。
現在の石造二重アーチは明治44年(1911)に架けられたもので、ニュース中継などでみたことがあるかもしれない、この「日本橋」という文字。
じつは15代将軍・徳川慶喜が書いたものなんです。
徳川のお膝元であった日本橋に江戸時代の面影を残すべく、当時の東京市長が依頼したといいます。

意識しない身近なところにも、意外と歴史は溶け込んでいたりする
うさぎやのどらやき

榮太樓總本鋪から徒歩1分。
東京三大どらやきのひとつ「うさぎや」があります。

ふっくらな皮とたっぷり入った大きめの粒あんがたまらない!
東京都中央区日本橋1-2-19(本店) 1-3-8(中央通り店)
(本店)日本橋A4出口から徒歩1分 (中央通り店)日本橋B9出口から徒歩1分
9:30~18:00 本店:土日祝 中央通り店:日祝 定休日
榮太樓總本鋪まとめ

本店へ伺ったとき、店員さんの立ち振舞の上品さと親切丁寧な接客で「さすが老舗…」と感嘆する一方、店内やディスプレイ、パッケージなどは革新的かつスタイリッシュ。
以前紹介した「木村家」もそうですが、“老舗”というブランドだけに頼らず、時代のニーズとトレンドを取り入れながら、伝統と歴史を引き継ぐ。その柔軟さも“老舗”たる所以なのかもしれません。
「榮太樓」の伝統と文化が交わる個性豊かな商品。ぜひ東京土産や自分へのご褒美にいかがでしょうか。