【土方歳三が詠んだ】豊玉発句集&木曽八景まとめ

豊玉発句集&木曽八景

豊玉発句集とは

土方歳三が多摩時代に詠んだ全41句(ボツ1句を含む)が纏められた豊玉発句集ほうぎょくほっくしゅう

文久3年(1863)1月、幕府が募集する浪士組への参加を決心した土方が、上洛前に編んで残したものになります。

「豊玉」は歳三の雅号ですが、歳三の祖父・義徳は三月亭石巴さんがつていせきは、実兄の為次郎は閑山亭石翠かんざんていせきすい、義兄の佐藤彦五郎は春日庵盛車かすがもりあんせいの雅号をもつ俳人。歳三はその影響をうけて俳諧に親しんだのでしょう。

素直に捉えた日常の情景や繊細な筆運びなどから歳三の秘めた優しさが垣間見え、はじめの「差し向かう 心は清き 水鏡」で決意、最後の「梅の花 咲る日だけに さいて散る」で覚悟や生き様が読み取れ、まさに土方歳三という人間を表した句集といえるのではないでしょうか。

41句中11句に「春」が使われていて、梅を自身を重ねたような句もあることから、土方さんの”春好き”がうかがえる!

興味深いのが、後半にある「凧揚げ」を詠んだ修正の1句を含む3つの句。

・年礼に 出て行空や とんびだこ
・暖かな かき根のそばや あぐるたこ ひが登り
・今日もきょう たこのうなりや 夕けせん

正月で凧揚げブームでもきていたのでしょうか。総司と子どもたちが遊んでいる光景を、遠巻きで眺める土方さんを想像してしまいます。

豊玉発句集一覧

表紙「文久三亥ノ春 豊玉発句集 土方義豊」

・差し向かう 心は清き 水鏡

・裏表 なきは君子の 扇かな
・水音に 添えてききけり 川千鳥
・手のひらを 硯にやせん 春の山
・白牡丹 月夜月夜に 染めてほし
・願うこと あるかも知らす 火取虫

・露のふる 先にのほるや 稲の花
・おもしろき 夜着の列や 今朝の雪
・菜の花の すたれに登る 朝日かな
しれば迷い しなければ迷わぬ 恋の道
 ※○で囲ってボツ
・しれば迷い しらねば迷ふ 法の道

・人の世の ものとは見へぬ 桜の花
・我年も 花に咲れて 尚古し
・年々に 折られて梅の すかた哉
・朧とも いはて春立つ 年の内
・春の草 五色までは 覚えけり

・朝茶呑て そちこちすれば 霞なり
・春の夜は むつかしからぬ 噺かな
・三日月の 水の底照る 春の雨
・水の北 山の南や 春の月
・横に行き 足跡はなし 朝の雪

・山門を 見こして見ゆる 春の月
・大切な 雪は解けけり 松の庭
・二三輪 はつ花たけは とりはやす
・玉川に 鮎つり来るや ひかんかな
・春雨や 客を返して 客に行

・来た人に もらひあくひや 春の雨
・咲ふりに 寒けは見へず 梅の花
・朝雪の 盛りを知らす 伝馬町
・丘に居て 呑むのも今日の 花見かな
・梅の花 一輪咲ても うめはうめ

(井伊公)ふりなから きゆる雪あり 上巳かな
・年礼に 出て行空や とんびだこ
・春ははる きのふの雪も 今日は解
・公用に 出て行みちや 春の月
・あはら屋に 寝て居てさむし 春の月

・暖かな かき根のそばや あぐるたこ ひが登り
・今日もきょう たこのうなりや 夕けせん
・うくひすや はたきの音も つひやめる
・武蔵野や つよふ出て来る 花見酒
・梅の花 咲るしたけに さいてちる

以上41句

木曽八景とは

文久3年(1863)春、浪士組上洛の道中に詠んだといわれる八首の和歌。

多摩の連光寺れんこうじ村名主である富澤忠右衛門が、京から村へ帰る際に歳三から土産にもらったもので、装飾のある美しい和紙に綴られています。

富澤忠右衛門とは

天然理心流の門人で、近藤・土方らの兄弟子にあたり、家茂上洛に追随し4ヶ月もの間、京都で過ごし、壬生へ訪れ土方らと面会しています。歳三の鉢がね・送り状・日記を多摩に持ち帰った人物。

※作者の署名がないことから、土方が京都で入手した木曽八景の和歌を富澤に記念として送ったものではないかともいわれています。

木曽八景一覧

横川秋月
 あかてみむよかハのなみに
   すむ月乃 かけもちりなむ
    あきのやまみつ

徳音晩鐘
 山てらはそとともわかす
   ほとゝをき ふもとにひゝく
    いりあひのかね

掛橋朝霞
 たちわたるあしたのくもも
   色深き かすミにこむる
    木曽乃かけはし

御嶽暮雪
 嵐ふくゆふへの雲乃
   絶まより みたけの雪そ
    空にさむけき

駒嶽夕照
 こまかたけはるる夕日に
   みる雪の ひかりもさむく
    まかふしらくも

寝覚夜雨
 かりまくらねさめ乃とこ乃
   山風も あめになりゆく
    夜半のさひしさ

小野瀑布
 しろたえにみる一すしハ
   手つくりの それかとまかふ
    をのゝ瀧つせ

風越晴嵐
 明わたるひかりもみえて
   風越の 高根はれゆく
    よるのうきくも

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