パリパリの皮にあんこが包まれた最中。餡の種類はいろいろあれど、「もなかなんて大体どこも同じでしょ」とお思いの方もいらっしゃるとおもいます。
甘党であった勝海舟が閉店を阻止するほど愛した壺屋の最中。一度食べたら海舟が守ろうとした意味がわかるかもしれない。
今回は最中の概念をくつがえす、人びとを魅了してきた「壺屋」についてご案内します。
壺屋とは
江戸前期、禁令により鎖国が完成した第3代将軍・徳川家光の時代。
いまから約400年前、当時は京坂の町人が江戸で出店することが多い中、壺屋は初めて江戸町民が開いた菓子店「江戸根元菓子店」として暖簾をあげました。
京都の公家・中御門家より「壺屋出羽掾(でわのじょう)」「播磨大掾(はりまだいじょう)」の称号を授与されるほど由緒ある店です。
江戸の地名や神社仏閣などを記した地誌「江戸総鹿子名所大全(えどそうかのこめいしょたいぜん)」や「江戸買物独案内(えどかいものひとりあんない)」などの古書にも「壺屋」の名前をみることができ、人びとから親しまれていたことがわかります。


創業時は九段坂近く(旧飯田町中坂)に店を構えており、御三卿である清水徳川家・一橋家も顧客とし、虎ノ門など10店舗以上支店があったという人気っぷり。※戦争や空襲により縮小し、現在地に移ったもののみとなった
勝海舟と壺屋
時は流れ、明治維新。
徳川の時代がおわり、日本が新たな一歩を踏み出そうとする中、江戸では「長い間徳川様にお世話になったのだから」と大店が次々と廃業していき、壺屋も暖簾を下ろします。
そんなとき、自宅に「お菓子部屋」をつくるほど甘いものに目がなかった旧幕臣・勝海舟。

市民が壺屋の菓子を食べたいと言っているから続けるように
『市民が』とは言っていますが、海舟自身が壺屋の最中を食べられなくなるのが惜しかったのかもしれません。

お菓子部屋には最中をはじめ、お団子や桜餅が常備してあったとか。
その言葉で壺屋は店を再開し、現在に至るというわけです。
このとき海舟は、“神頼みせずに気力で頑張れ”という意味の「神逸気旺」の書を送っています。
この書はいまも店頭の一番目立つところに飾られています。
「壺最中」と「デセール」

壺屋の最中は3種類。
江戸時代から食べられ、海舟も愛した丸形の「壺々最中」。壺々最中より少し大きい「壺最中」、そして餡子がたっぷり入った「壺型最中」。
壺々最中だけこしあんのみで、他はこしあん(白皮)とつぶあん(焦がし皮)それぞれあります。

壺型最中のぎっしり詰まった美しいあんこ!


おそらく手に取った時「重っ!」と思うはず。手のひらより小さいのにかなりの重量感です。
最中といえば、皮が唇や上あごにくっつく…という印象があるとおもいます。
なんと壺屋の最中は、全然くっつかない!
パリパリ食感ではなく、サクサクしてるんです。新感覚…
香ばしいサクサク食感の皮に上品な甘さの餡子。これは江戸時代から人々を虜にするわけだ!と納得のお味。
賞味期限は4日ほどで、日を置くと皮が馴染んで少ししっとりするんですが、噛みしめるとやっぱりサクサク。食感が面白い。そしておいしい…
女将さんが「お茶と一緒にお召し上がりください」とおっしゃるとおり、これはお茶にめちゃくちゃ合う。
餡は甘いけど、後味はすっきり。もたっ…とした感じは全く残らない。それがお茶の渋みと調和する。
江戸の人たちもこうやって食べていたのかもしれない、とタイムスリップした気分に浸れます。

白皮はパリパリ系なので、ぜひ焦がし皮を食べてみて欲しい。きっと虜になるはず…

そして注目して欲しいのは、このレトロ感漂う「デセール」。
明治時代からレシピも変わらず、最中の皮を焼く技術でつくっている欧風ビスケット。

これが素朴でおいしい!近年稀に見るタイプの古き良きビスケット!
女将さん「手作りなので、少し焦げてるのも混ざってます~」
とのことでしたが、この焦げがまたいいアクセントで癖になる!
固焼きなので普通のクッキーとは違い、サクサクというよりザクボリ。牛乳と合う。

ひねり型が一番硬い!パキンっボリボリっといい音がする笑

やめられない止まらないので買い占めたくなりますが、おひとり2個までです!
壺屋總本店へのアクセス
■ 大江戸線「本郷三丁目」駅より徒歩4分
■ 丸の内線「本郷三丁目」駅より徒歩5分
■ 千代田線「湯島」駅より徒歩5分
春日通りに面していている壺屋ですが、おもわず通り過ぎてしまいそうになる、ひっそりと佇む店構え。

趣のある木枠の引き戸をあけると、「いらっしゃいませ~」と奥から女将さんが出てこられます。
おばあちゃんちを彷彿とさせる店内も相まって、なんだかほっこりして居心地がいい。
飾ってあるものは、かなり貴重なものばかりですが。

余談ですが、壺屋から徒歩8分のところには、東京大学のシンボルである赤門があります。
東大の門として有名ですが、正式名は「旧加賀屋敷御守殿門」といい、加賀(今の石川県)の大名・前田家が、将軍家から妻を迎えるにあたって建てた門。
つまり東大・本郷キャンパスは、加賀藩前田家の江戸上屋敷があった場所なんです。

赤門は東京大空襲の戦火も免れ、当時の姿のまま現存している希少な文化財!
壺屋まとめ
海舟も愛した最中、いかがだったでしょうか。
根強いファンが多い壺屋。筆者も洩れなく虜になり、高頻度で来店してしまうほどやみつきになっている次第です。
現地でしか味わえない江戸の味を、ぜひご賞味あれ。
東京都文京区本郷3-42-8
丸の内線「本郷三丁目」駅より徒歩5分、大江戸線「本郷三丁目」駅より徒歩4分、千代田線「湯島」駅より徒歩5分
平日祝 9:00~16:50 日曜定休日